デザイン思考 (Design Thinking)

デザイン思考とは何か

 「デザイン」と聞くと、商品やパッケージなどの形態、図案や模様、レイアウトなど、美術的なイメージを思い浮かべることが一般的だろう。本来の言葉の意味が「従来の記号(sign)の否定・分解(de)」と理解される通り、デザイン思考におけるデザインとは、より広義に捉えられ、イメージとしては、「設計」に近いニュアンスを含んでいる。

 デザイン思考が注目を集め出したのは2004年ごろといわれ、2005年にスタンフォード大学にd.schoolが創設され、Business Week誌が“design thinking”と題した特集号を発行したことで一気に知られるようになった。そして2008年、ハーバードビジネスレビューにIDEO(アイディオ)のCEOであるティム・ブラウン(Tim Brown)が「IDEOデザイン・シンキング」を発表したのを契機に、ビジネス領域での関心が高まっていった。

 日本はこれまで、生産や販売といった下流工程において強みを持っていた。しかし、上流工程となりコンセプト創造は弱い。つまり、何を作ればいいのか、作ったものをどのようにユーザーに届けるのか、といった点についてはあまり議論されてこなかった。

 しかしこれからは、自ら問題を定義し、コンセプトを創造し、市場を創り出していかない限り、大きな収益を生み出すことは難しくなる。そこで注目を集めるのが、イノベーションを生み出すマネジメント手法である「デザイン思考」なのだ。

5つのステップを高速で何度も回す

 デザイン思考は、共感(Empathize)→ 問題定義(Define)→ アイデア創出(Ideate)→ プロトタイピング(Prototyping)→ 検証(Test)の5つのプロセスで展開される(図5)。

図5 デザイン思考の5つのプロセス
05

 共感(Empathize)は、実在のユーザーを見付け、観察するためにフィールドワークやインタビュー、参与観察を行い、ユーザーが抱える本当の課題や問題、求めているものは何かを見付け出す段階となる。いきなり具体的な仮説構築を行うのではなく、ユーザーの日常生活や行動様式、思考様式、置かれている状況を、五感を生かしてありのままに理解し、気づき(=インサイト)を獲得することを目指す。

 共感段階では、目に見える行動や言動だけではなく、その背景にある心情や価値観に近づくことが重要となる。実際には、異なる専門性を有する4~5名のチームを作り、想定されるユーザーのもとへフィールドワークを実施する。そして、観察を通じて得られたデータ(フィールドノート、写真、映像、音声など)をチーム内で整理、分類、解釈を繰り返し、ユーザーの体験や経験、主観を可視化し、新たな気づき(インサイト)を獲得する。これまで当たり前だと思っていたことに対して、違和感や疑問を見付け、その本質的な理由を理解することがイノベーションの種となる。

2問題定義

 問題定義(Define)は、観察を通じて明らかになったユーザーの実態から、ユーザー自身も気付いていない本当の課題や目的を絞り込み、目指すべき方向性やコンセプトを定義する段階を指す。その際、できる限りユーザーのストーリーや背景にある価値観への深い洞察を行うことが求められる。例えば、ペルソナやカスタマージャーニーマップなどのツールを活用し、顧客価値の発見・定義を行う。

 ここは、アイデア創出のスタートラインとなるため、「われわれの解くべき問題は何か」を特定し、明確に規定することが重要となる。

3アイデア創出

 アイデア創出(Ideate)は、定義された目的や方向性を実現するためのアイデアを量産する段階である。この段階では、ブレインストーミングやアイデア創出技法が活用され、質よりも量を重視し、考えられ得るさまざまなアイデアを創造する。そして、できるだけ多くのアイデアスケッチを描き、シナリオやストーリーを作り上げていく。

4プロトタイピング

 プロトタイピング(Prototyping)は、アイデア創出のステップで出されたアイデアの簡易なプロトタイプを作成する段階である。ここでは、コストをかけず、できるだけ安価で、かつラフなプロトタイプを作成する。

 プロトタイプを作る目的は、新たな学びを獲得するため。この段階で重視されるのは完成品を作ることではなく、必要最低限の機能を有したものである。紙を使ったペーパープロトタイピングや、POP(Prototyping on Paper)などのアプリケーション、ストーリーボードや動画、スキット(寸劇)などが活用される。

 アイデアを視覚化することで、新たな気づきやアイデアが生まれたり、共感・問題定義の見直しの必要性が認識されたりするなど、新たなディスカッションやユーザーとの対話のきっかけとなる。

5検証

 検証(Test)では、作成されたプロトタイプを実際のユーザーに使用してもらい、当初の目的が達成できているのか、想定している機能が有効に働いているのかなどを確認し、ユーザーの生の声を基にアイデアの検証やブラッシュアップにつなげていく。なおここでは、もし「当初の想定が機能していない」と判断されたときにはちゅうちょせず構築されたアイデアやプロトタイプを作り直す。

 デザイン思考では、この5つのプロセスを反復的に繰り返し、徐々に完成へと近づけていく非直線的なアプローチだといえる。例えば、検証の段階で当初想定した機能が提供できないと分かれば、もう一度コンセプト設定のために、問題定義の段階に戻ったりすることもある。

デザイン思考を構成する6つのプロセス

1. 問題の神髄を見極める
2. 出来るだけ多くの解決策を考えてみる
3. 幾つかのアイディアを選び、研ぎすます
4. 最終的なアイディアに絞り込む
5. ビジュアルデザインに落としこむ
6. 実行してみよう!

1. 問題の神髄を見極める

通常の問題解決プロセスにおいては、その解決方法に重点が置かれます。しかしながら、デザイン思考的プロセスでは、その問題自体が本当に取り組むべき問題であるかどうかを一度じっくりと考え、最も解決するべき問題を見極める事から始まります。

例)
Q. どうすればDVDドライブよりも薄いノートブックパソコンを作ることが出来るだろうか?
A. そもそもDVDドライブは必要なのか?

2. 出来るだけ多くの解決策を考えてみる

たとえ問題に対する解決策が容易に見つかると思われる時にも出来るだけ多くのアイディアを出してみる。それにより今までには考えつかなかったチャンスが見えてくる場合もある。

例)
出来るだけ軽くて薄いパソコンを作り出すため、DVDドライブ以外にも通常のHDDやLANジャックも取ってしまおう。いまどき、多くのユーザーはWifiとクラウドを利用するのが主流だからだ。

3. 幾つかのアイディアを選び、研ぎすます

一つ前のプロセスで出たアイディアの中でも、新しい機会を与えてくれそうなものを選び、より改善する。その際には既存の概念に捕われすぎないようにする事。そして、それらのアイディアをテストしてみてより精度をアップさせる。

例)
パソコンの最終スペックには出来るだけ”攻めた”アイディアを盛り込み、周りの人々の反応を確かめてみる。今までに無いタイプのものを作るので、見た目も最新的なものにする。

4. 最終的なアイディアに絞り込む

最初に与えられた問題を解決し、それに加え、全く新しいチャンスを与えてくれる最終的なアイディアを採用する

例)
出来るだけ薄くて軽量なノートブックパソコンを作り出す為に、光学ドライブとLANジャックを廃止し、USBも2つのみ、そしてフラッシュドライブ記録デバイスとして採用する。そしてデザインは出来るだけスタイリッシュに。

5. ビジュアルデザインに落としこむ

全てのアイディアが決まったら、ここで初めて視覚的なデザインやプロトタイプ作成を開始する。

例) スペックが決まったパソコンのCGモックアップを作成してみよう。

6. 実行してみよう!

今までのプロセスで決定した事柄を元に実行あるのみ。